東京高等裁判所 平成5年(行コ)136号 判決
神奈川県大和市南林間二丁目一九番六号
控訴人
株式会社相模建動
右代表者代表取締役
博田桂一
右訴訟代理人弁護士
杉本昌純
神奈川県大和市中央五丁目一三番一三号
厚木税務署事務承継者
被控訴人
大和税務署長 杉山孝司
右指定代理人
渡邉和義
同
佐藤謙一
同
蓑田徳昭
同
野末英男
右当事者間の更正処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
一 本件控訴を棄却する
二 訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一申立て
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成二年六月二九日付けでした控訴人の昭和六二年三月一日から昭和六三年二月二九日までの事業年度の法人税の更正のうち所得金額一〇一〇万五一六一円納付すべき税額一三三九万九〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定のうち過少申告加算税の税額三五万〇〇〇円を超える部分をそれぞれ取り消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨。
第二 本件事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由の第二記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決二枚目裏八行目の「本件事業年度」を「昭和六二年三月一日から昭和六三年二月二九日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)」に改める。
2 同三枚目裏一行目の「基づき、」の次に「別表四記載のとおり、」を加える。
3 同末行の「第一及び第二」を「第一目録及び第二目録」に、同四枚目表四行目の「右第二の土地」を「右第二目録の土地(以下「第二の土地」という)。」に改める。
第三 証拠の関係は、原審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四争点に対する判断
一 法人税法二二条三項二号は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額について別段の定めがあるものを除き「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定していないものを除く。)の額」と定めており、法人税基本通達二-二-一二(以下「本件通達」という。)は、、右当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、当該事業年度終了の日までに、(一)当該費用に係る債務が成立していること、(二)当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること、(三)その金額を合理的に算定することができるものであることの三要件のすべてに該当することを要するものとしている。法人税法二二条三項二号にいう債務の確定の判定基準として、本件通達の内容は、課税の公平を図り、所得計算は可能な限り客観的に覚知し得る事実関係に基づいて行われるべきであるという観点から見て合理的で妥当なものというべきであり、本件においては控訴人も本件通達をその判定基準とすることの妥当性については争っていない。
二 原判決別紙和解条項によれば、昭和六二年一二月七日に道下らと控訴人との間で合意された本件和解においては、控訴人は、本件土地についての占有権原がないことを認め、同別紙物件目録第一目録のの土地を同月三一日限り道下らに明け渡すことを約するとともに、第二の土地については昭和八〇年(二〇〇五年)五月三一日限り本件建物を収去して道下らに明け渡す旨約しているが、併せて、道下らに対し示談金(損害金)として六、三五七万円を支払う義務のあることを認め、うち支払い済みの一、五〇〇万円及び昭和六二年一二月末日に支払う五〇万円を除いた残額四、八〇七万円につき昭和六三年一月から昭和八〇年(二〇〇五年)五月まで毎月末日限り二三万円ずつ二〇九回に分割して支払うことを約しており、控訴人が右示談金(損害金)の支払を二回以上遅延したときは期限の利益を失い道下らに対し残額を一時に支払うとともに、即時に本件建物を収去して第二の土地を明け渡すこと、控訴人が右明渡期限の到来前に任意に本件建物を収去して第二の土地を明け渡したときは、その時における示談金(損害金)残額を免除することとされている。
三 右事実及び証拠(乙五)によれば、本件和解の趣旨は、控訴人が本件土地の占有権原を有しないことを前提として、第二の土地については昭和八〇年五月三一日まで明渡しを猶予するとともに、控訴人が第二の土地を不法占拠することに対する損害賠償として道下らに対し月額二三万円の割合による賃料相当損害金を支払うことを定めたものと認められる。そして、前記のように示談金(損害金)については一応明渡猶予期限までの損害金の総額を記載するという形式が採られており、毎月の支払を二回以上怠ったときはその時の残額を一時に支払う旨の過怠約款が定められているが、それは約定違反の場合の違約金の額としてそのように定められているに止まるものであるから、期限前の明渡しの際の残額免除の約定と併せ考えると、毎月支払うべき二三万円の損害金の支払義務は、控訴人の第二の土地に対する占有の事実があって初めて発生するものであることが明らかである。
四 以上によれば、本件示談金四、八〇七万円のうち、本件事業年度の終了の日である昭和六三年二月二九日までに具体的な給付をなすべき原因となる事実が発生していたのは、同日までの間控訴人が第二の土地を占有したことによる損害金四六万円のみであり、同年三月一日以降の損害金に係る部分四、七六一万円についてはいまだにその具体的給付をなすべき事実が発生していないのであるから、本件通達の(二)の要件に該当せず、本件事業年度終了の日までに債務が確定しているものとはいえないというべきである。
したがって、本件和解の成立時において本件示談金の債務が全額確定した旨の控訴人の主張は到底採用することはできない。
第五 本件処分の根拠、本件更正の適法性、本件賦課決定処分の適法性についての判断は、原判決事実及び理由の第四記載のとおりであるからこれを引用する。
第六 以上の次第であるから、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 菊地信男 裁判官 大谷禎男 裁判官吉崎直彌は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 菊池信男)